漢字クイズ(テーマ・春の日)結果
4月15~19日の回答割合は次の通り(★が正解)。
闌ける | さける | 6% | たける★ | 52% | ひらける | 41% |
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淡冶 | あわじ | 5% | たんち | 18% | たんや★ | 77% |
日永 | ひえい | 9% | じつえい | 12% | ひなが★ | 78% |
長閑 | ながひ | 2% | のどか★ | 92% | のんびり | 7% |
終日 | つごもり | 11% | ひねもす★ | 69% | ひがな | 19% |
映画でも原作小説でも、ある言葉が載っていないことで大騒ぎになるシーンがあります。引きたい言葉が出てこない辞書というのは校閲にとっても実に困ったものです。
前週のまとめで「生老病死」が載っていない辞書があることを紹介しましたが、これは採録している辞書も少なくありません。しかし今回の「淡冶」は探した限りでは全く見つかりませんでした。全14巻の「日本国語大辞典」(小学館)にも載っていません。この日本最大の辞書にないからといって他の辞書にないとはいえませんが、調べた約15の国語辞典のいずれにも載っていませんでした。
この言葉を知ったのは、たしか「日本人が大切にしてきた季節の言葉」(復本一郎、青春出版社)からだったと思います。「山笑う」の項で、中国宋代の画家・郭熙の「春山は、淡冶にして笑がごとし。夏山は、蒼翠(そうすい)にして滴るがごとし。秋山は、明浄にして粧(よそお)うがごとし。冬山は、惨淡として眠るがごとし」から、「山笑う」「山滴る」「山粧う」「山眠る」の季語が生まれたとされます。
「『歳時記』の真実」(石寒太、文春新書)にも同様の記述があります。きっと昔から何度も引用された文章なのでしょう。ですから、一般的な言葉ではないとはいえ、全く使われない言葉というわけでもありません。しかも、冶の字は治と紛らわしいので、仮に年配の社外筆者が手書きで「淡冶」か「淡治」か読み取りにくい原稿を送ってきたとすると、辞書で確認したくても載っていないと確認できないわけです。
辞書にないのは「淡冶」という言葉が存在することが見落とされているからか、載せる必要性がないと判断されたためかは分かりません。もちろん漢籍にある言葉を国語辞典に全て入れる必要もないし、物理的に不可能です。が、少なくとも淡冶くらいは、冶の字が常用漢字に入ったこともあるし、入れてほしいと思います。
辞書に載っていないといえば、「闌ける」はあっても「闌春(らんしゅん)」を採用する国語辞典はなかなか見当たりません。歳時記ではよく見られるのですが。これに限らず、歳時記にある言葉が辞書になかったり、あっても表記が違ったりするということは、意外に多いという印象があります。
もちろん、歳時記は狭い分野でのみ通用する言葉や表記を使用する場合が多いし、歳時記というものがあるのですから一般向けの辞書としては、それらを全て収載する必要はないかもしれません。
とはいうものの、校閲としては「こんな言葉あるんだろうか」と疑問に思ったときに頼りにするのはまず辞書ですから、たとえ俳句限定用語でも、ある程度使用実態のあるものは載せてほしいと思います。
今回は本来の正解率へのコメントそっちのけで辞書に批判がましいことを書きましたが、これも辞書を愛するが故とご理解ください。